私達の乗ったタクシーが到着するのを、大谷社長は玄関の外でじっと待っていてくださいました。そのお姿を見つけたとき、温かいものがジーンと込み上げてきて、お話をうかがう前に、すでに感動しておりました。

 

ハンコは衰退産業で、成人式記念の注文も半減していて、そのために多角経営もされていおり、大手ができないことで勝てる場を見つけて対応しているとのこと。時代の波に流されない工夫で、経営も安定していることはすばらしく、そのための努力を日々されている結果なのだと思いました。

 

座ってできる仕事で、障碍者が働きやすく、また手に職をつけて自立していくことが可能な職として、受け入れやすい業界でもあるということ。
障碍者の法律(S51年)ができる10年も前から障碍者を雇用しています。
昔1万円を持って、社員の家庭を全部回っていたことがあったという温かい社長さんです。そのとき、障碍の子を持った社員が親なきあとのことをとても心配しているのを知り、そこから新潟だけではなく、全国に働く場をつくろうと全国展開をはじめたそうです。
障碍者だけでなく、普通の社員に対しても、工場は65歳まで、店舗は70歳まで雇用しており、高齢者の雇用も考えて経営されていて、社員には心強い会社です。

 

驚いたのは、利益は一覧表にして毎月全社員に配るとのこと。
個人の履歴書以外はすべて社員に隠さず公開しているという潔さ。
各店舗や個人の成績も発表しており、表彰もしています。また成績の悪いベストテンも発表するが、これは深刻にならず、おもしろおかしく発表して、競争はさせるが、社員が苦しまないよう配慮されています。ここにも社長の温かい思いやりが感じられます。

 

人事も部署ごとに必要なら、社員が面接し採用しているとのこと。それをうかがい、社員を心から信頼しているからこそできることだと思いました。しかも、部署内での仕事の分担もそれぞれが話し合って決めており、自主性を重んじています。
このように、社員に会社の内情を隠さず公開したり、人事も任せてしまうということは、
社員でありながら、社長の視点や責任を一人ひとりが持ち、自分の会社は自分が背負っているという意識を高めているのではないかと思いました。

その意識を全員が共有するために、社長は毎週1回本社の社員に会社の状態や自分の想いを話されるそうです。また全国にある店舗の社員には直接話しができないので、録音して
そのテープを全社員に聴いてもらっているとのこと。社員が社長と同じ目線でしっかりと経営も考えていかれるように考えられており、この努力があってこそ、安定した会社として継続できているのだということがはっきりと分かります。

 

また欠点を見たら切がないから、批判せず良いところだけ見て褒めて育てることを実践しておられます。工場内を見学しているとき、精神障碍の方の仕事ぶりを見て、社長はさりげなく褒めていらっしゃいました。

 

「ありがとう券」(1枚100円)を発行しており、何か親切にしてもらうと感謝の気持ちとして「ありがとう券」が相手に渡され、その枚数分のお金が給料に上乗せされます。
また「感謝状」もあり、お誕生日に日ごろ感謝の気持ちを伝えられないでいる家族に宛て感謝状をプレゼントし、その感謝状を3ヶ月ごとまとめて本にしているそうです。
社長自身いやなことがあるとその本を見て、元気をもらうそうです。このように、社員同士でいつも感謝の気持ちを大切にして日々を過ごしています。
今の社会は「自分さえよければ」という自己中の考え方も多く、人と協力することや人を大切にすることが少なく、さみしい思いをすることが多々ありますが、このような取り組みから自然に温かい心の交流が生まれるのだと感激しました。

 

社長は最初の子どもが生まれた頃に難病を発症し、入退院、手術を繰り返しており、命の保障もない状況の中、経営もされてきました。そのお話の中で、なぜ自分だけがこんな辛い思いをするのかと思っているときは、病気があちこちに転移していたが、病気になって気付けたこともあり、病気になってよかったと思えたときから、転移がなくなったとのことです。死と隣り合わせでも新潟で一番のはんこ会社になるという夢を諦めず、子どもを残して、また親より早く死ねないという気持ちが、強く生きるということにつながっていることを感じました。
そして自分にできることを思い切りやり、実現してこられたからこそ生まれる自信と懐の深い温かさを感じ、私もたくさんの勇気と力をいただきました。

 

今期で退職され、その後は就職が難しい精神や知的障碍者の訓練や働く場をつくるため社会福祉法人を立ち上げられるとのこと。すでにつぶれたゴルフ場を買い取ってあり、そこに施設と牧場、農場をつくり観光の場にもするとのことです。2億円以上の退職金をすべて寄付をし、その夢の実現に向け、また新たな人生が始まります。その潔い姿勢にも驚きます。新しい施設ができたら、また是非訪問させていただきたいです。

 

そして帰り、タクシ-に乗ってから、私はこのすばらしい社長が、いつまでも長生きして活躍してほしいと願いつつ、私達のタクシーが見えなくなるまで見送ってくださった社長に「どうかお元気で!」と心の中で手を振り続けました。
言葉では表せないほどの感動とたくさんのことを学ばせていただき、社長には心から感謝しております。
大谷社長に少しでも近づけるよう今後も努力を積み重ねていきたいと強く誓いました。
どうもありがとうございました。